土蔵の出てくる落語には「火事息子」「ねずみ穴」「たちきれ」などがありますが、みな大店という設定からわかるように、土蔵は財産を火災から守るための建築物です。「火事と喧嘩は江戸の華」と言われるように火災が頻繁におこったため、江戸の町々には土蔵が多かったと言われています。
土蔵の入り口は三枚の扉から構成されています。外側は左右に開く厚い漆喰塗りの「戸前」という扉があり、内側には網戸があります。この二枚の扉の間にもう一枚、「裏白戸(うらじろど)」と呼ばれる引き戸があります。厚板の表面に刻みを入れて厚く白漆喰を塗って作られています。火災に耐えられる様にこれだけ厳重に作られた土蔵ですが、それでも火災時には念には念を入れて隙間を土で目塗して中のものを守りました。それを怠ったために落語「ねずみ穴」では蔵が焼け落ちてしまった訳です。
(資料提供:深川江戸資料館解説書より)
土蔵の周囲には、かぎ状のクギが付く漆喰で作られた半円球の形状のものが付いています。このクギを「オレクギ」、半円球を「ツブ」またはその形から「オッパイ」という俗称もあり、関東の土蔵の外観の特徴とも言えます。
作られた目的ですが、これといった定説はありませんが、落語「火事息子」では番頭さんがこのオレクギに引っかけられ目塗りをする場面があるように、土蔵は火災の時は扉や窓を閉ざし、隙間を土で目塗りしなければならず、その材料をつるすためにも使われました。またオレクギは壁の内側の大貫に打ち込まれているためかなりの重量に耐えられるようになっていて、そのため土蔵の修繕時の足場を組むのに使われたりもしたようです。
(資料提供:深川江戸資料館解説書より)