前座さんの仕事の一つで、前の演者が終わり次の演者が上がる前に出て座ぶとんをひっくり返し、羽織とか湯呑みがあれば片付け、次の演者の
「めくり」(演者の名前を書いた紙の札)をかえすまでを「高座返し」と言います。おもに一番下の前座さんの仕事とされています。
この高座返しも簡単なようでなれないと結構難しい仕事の一つで、基本的にはお芝居の黒子のように絶対に目立ってはいけません。出番の切れ目で団体さんが入場してきた場合、お客様が全員席に着くまで、高座の端で客席の様子を見て、次の演者の出を調整したりもします。
座ぶとんや、またたまに湯呑みが出る場合にしても演者により、前、後ろと好みの位置があり、それを全部覚えなければなりません。ひっくり返す時も、手前からパタンとやれぱ埃が客席側に飛び、お客様のご迷惑になります。
また座ぶとんにも前と後ろがあるのはご存知ですか。座ぶとんの四辺のうち三辺には縫い目があります。残りの縫い目のない方が前になります。これは高座の芸人と客席のお客様、ここでお会いしたのも何かのご縁
でございます。これからも縁の切れ目がない様にということで、この縫い目のない一辺をお客様に向けるのが礼儀とされています。前座さんはこんな所まで気を使って座布団を返します。
昔の商家で使っていた大福帳と同じ帳面です。何を書くのかと言いますと、その日高座に上がった噺家が、何の落語をやったのかを書きます。
書くのは前座さんの一番古株、楽屋では立て前座と呼んでいますが、必ず筆と墨を使って書きます。右の方から演題の下に演者名を順次書いていきます。ですから後から出る噺家は根多帳を見て、同じ噺はもちろんのこと、同類の噺も避けて自分の演じる噺を決めなければなりません。ちなみに、同じ噺や同類の噺をやってしまうことを「噺がつく」と言います。
鈴本ではこの帳面の表書きを「演題大宝恵」と書き「えんだいおぼえ(覚え)」と読ませ、覚え書きとあわせ大きな宝(お客様)に恵まれますようにと縁起をかついだ書き方をしています。
前座さんの仕事の一つに着物をたたむという仕事があります。
「たとう紙」という敷物を敷いて、着物が汚れない様に気をつけてたたみますが、寄席以外の場所では座布団を並べた上でたたむこともあります今ではほとんどの前座さんが、たとう紙を持ち歩いています。
故圓生師匠は気に入った前座さん以外は自分の着物をたたませなかったというほど着物というものはデリケートなもので、特に柔らかもの等は、ちょっと間違えてもすぐに折りじわが出来てしまいます。紋のところは触
ってはダメ、手のひらを使ってはダメ、脂性の人は手を洗ってからでなければダメ、荒れてかさついた指で触ってはダメと、それだけ着物というものは噺家にとって大切な商売道具なのです。
楽屋ではそれぞれの師匠によってたたみ方や風呂敷きへのしまい方が違います。たたみ方では、「三遊亭」「柳家」「新柳家」「古今亭」「橘家」「三つ」などの種類があります。大き目にたたんだり、小さくしたり、袖
を前に返したり、後ろにしたりとその師匠によって違います。この師匠は柳家だから、たたみ方も「柳家」かなと思うと「古今亭」だったなんてこともあるわけです。風呂敷きのしまい方にしても、帯を下に敷く師匠、羽
織を上にする師匠、着る順番にしまう師匠と千差万別、前座さんは全部覚えなければなりません。