この三つの言葉は寄席の出番の用語です。
まず『さら』、ほかに「さらくち」とか「開口一番」とも言いますが、一番最初に上がる芸人さんを指します。大概が前座さんです。
次の『くいつき』は仲入りのすぐ後に出る芸人さんを指します。お客様が休憩時間にお買い求めになったお弁当やお菓子を召し上がっている時に
上がるので、食いつきと言います。客席がザワザワして落ち着かないためやりにくい出番ですが、色物の方や腕のいい若手噺家が勤めます。
最後に『膝替り』ですが、番組の最後、トリのすぐ前に出る芸人さんのことです。原則として色物の方ですが、真打の芸を引き立てて、控えめな
がら自分の芸を皆様に披露し、それが決して邪魔にならない様にするのが肝心です。またトリが楽屋入りしていなければ、繋がなくてはなりませ
んし、時間がのびていれば短くやらなければならないという具合に、大変気を使う難しい出番です。
寄席の番組を決めることを顔付け(かおづけ)と言います。
顔付けは落語協会事務所に、各席の席亭、支配人、協会の事務員さんら六、七人が集まって行われます。写真のような板に各寄席の枠があり、落語協会所属の全員の芸人さんの名前を書いた、縦4センチ、幅1センチぐらいの小さな木の札を並べていきます。最初にトリ、仲入りの噺家さんを決め、後は順番に各寄席の時間がぶつからない様に札を納めていきます。
落語協会側は協会に所属している芸人さんを均等に寄席に出したい、寄席側は実力人気がありお客様を呼べる芸人さんを使いたい。事務員さんが「ひとつ、この人をここに・・・」と木札を置く。「いや、うちはいりません」とピシッと札がはねられるといった、シビアーな状況で番組が出来上がっていきます。たまに「協会の幹部の方は同席するのですか」というご質問を頂きますが、昔は同席していたようですが、現在はこの顔付けに芸人さんは立ち会うことは出来ません。
下書と書いて「げしょ」と読みます。
中には正月初席と二の席のトリの師匠の名前が書いてあります。毎年一の酉に落語協会から各寄席に届けられます。このことを「初席の下書を入れる」と言いますが、昔は事務員さんの御祝儀目当ての小遣い稼ぎとして始まったようですが、現在は重要な行事となっております。
寄席は二の席(1月11日から20日)までが正月興行です。ですから当席の場合は計5人の師匠方がトリをとりますので五本の下書が入いることになります。入れられた下書は千秋楽まで席亭の部屋に飾られます。
ただしこの行事については、協会幹部の一部の師匠と事務局の方くらいは知っていますが、その他の噺家さんはご存知ない方がほとんどだと思います。