開場と同時に前座さんが大太鼓を長バチで打ちます。これを一番太鼓と言
います。『お客様、大勢さんいらして下さい』との願いを込めて打ち込みますが、最初に太鼓の縁をカラカラカラとたたきます。これは木戸口が開く音
を表しています。そしてどんどんどんと来い、ドンドンドントコイ、金持ってどんと来い、と欲張りに打ちます。
また、一番太鼓を打ち上げる最後のところで、長バチを〔入〕という字の形にして太鼓の表面をおさえます。やはり大入りになる様にとの縁起をかついだ打ち方です。
この一番太鼓は別名「入れ込み太鼓」とも言いますが、当席では昼の部、夜の部のお客様の入れ込み時に、切符売場の上でお客様にこの入れ込み大鼓
をご披露しております。今ではこの近辺の名物になっており、太鼓の音が聞こえると「あっ、12時だ(昼の部開場時間)」とか「もう5時だ(夜の部
開場時間)」と言われるようになりました。
開演5分前に打つのが二番太鼓。または着到(ちゃくとう)とも言います。『お客様、お待ちどうさまでした。これから開演いたします』という
合図の太鼓です。二番太鼓は締太鼓・大太鼓・そして能管(のうかん)という笛が入ります。
お金を持って来て下さるお客様は福の神。その福の神が大勢さんいらっしゃるようにと、お多福来い来い、お多福来い来い、ステツク天天、ステツク天天と打ちます。太鼓を打つのは前座さんの必修科目。お客様の聞かれる二番太鼓、はたしてお多福来い来いと聞こえますかどうか、そこは前座さんの腕次第。
寄席の終演、お客様がお帰りになる時打つのがハネ太鼓、または追い出しとも言います。ドロドロドロと打ちおろすと同時に、楽屋にいる前座さ
ん、二ツ目さん全員で『ありがとーございました、ありがとーございました』と声を張り上げてお客様に御礼申し上げます。
ハネ太鼓はお客様がお帰りになる様子を太鼓で打ちます。デテケ、デテケ(出てけ、出てけ)と打ち、木戸を出て皆さんがいろいろな方角へお帰りになられるので、テンテンバラバラ、テンテンバラバラ、客席からお客様が全員出られたところで太鼓の縁をたたいて、カラ、カラ、カラ(空、空、空)と打ちます。最後に太鼓の縁をバチでこすって、ギーと木戸の鍵をおろしましたと言う擬音を出して本日の興行はすべて終わりです。ただし、昼の部の終演時にはまだ夜の部がありますので、最後のギーはやりません。
一番太鼓と同様、ハネ太鼓も皆様がお帰りになる際、切符売り場の上で前座さんがたたきますが、このデテケ、デテケのバチさばきは大変難しく太鼓修行の難関です。これがリズム感よろしくたたけるようになれば、前座さんも一人前です。皆さんもためしにちょっとやってみて下さい。右手と左手がうまく動きませんから。